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イスタンブール・ダンス・フェスティバル2007
レポート:ノシロナオコ(振付家/ダンサー)

イスタンブール訪問は2002年春以来、今回で6回目。未だ文化の違いに戸惑いながら、その魅力に飽きることはありません。初めて訪れた時に感じたのが、知的欲求における貪欲さとタフな精神力でした。それはヨーロッパとアジアの境界に位置し、様々な民族の血が入り交じった歴史を抱えるトルコならではの、必然的なアイデンティティーの追求によるものかも知れません。その地に生まれた時から「自分は何者なのか」という命題が潜在的に突き付けられているように感じました。

トルコの街並み

街を歩いていると、連なる軒先で煙草をふかしながら何杯ものチャイ(紅茶)とおしゃべりを楽しむ人々に出会います。オープンカフェも多く、通りはいつもチャイを楽しむ人達で賑わっています。夜になるとライブ演奏を楽しめる店も多く、定番のフォークソングが流れると、みんなで手拍子しながら合唱が始まります。

トルコは国民の99%がイスラム教徒と言われていますが、イスタンブールに代表される近代化の進んだ都市や、欧州からの観光客も多いリゾート地などでは、日常生活でのイスラム色はかなり薄らいでいて、女性は髪も肌も露に、その服装は東京と変わりません。また、欧州との往来が盛んなこともあり、英語が堪能な若者が多いという印象を受けます。

トルコのコンテンポラリーアート事情

なかでもコンテンポラリーアーティストは多く欧州を往来し、グローバルな情報と動向をタイムリーに察知し、そのユニークなアイデンティティーと相まって、非常に斬新な創作を行っています。そしてダンスも例外ではありません。しかしながら未だトルコ国内で発表する機会は少なく、国内に拠点を置きながらも、公演機会などはヨーロッパ各地に求められることが多いようです。

そういった状況の中で、2007年初頭イスタンブールの中心地区ガラタサライにオルタナティブなスペースで特徴的な劇場garajistanbulが新しくオープンし、現代演劇やコンテンポラリーダンス公演をイスタンブール市民が楽しむ機会も増えることになりました。

イスタンブール・ダンス・フェスティバル

そのgarajistanbulイスタンブール・ダンス・フェスティバル2007(2007年5月30日〜6月10日)は開催されました。フェスティバル期間中は、昼間のワークショップから夜の公演までダンス三昧の毎日で、ダンス関係者のみならず一般市民の関心も非常に高く、学生や若者から年輩まで、幅広い年齢層の観客が連日多く訪れました。計19作品が上演されたなかで、海外からの3作品(フランスからカンパニーC dan C、日本からノシロナオコ、オランダからジャック・ギャラガー)を除いては全てトルコ人振付家によるもので、国際フェスティバルというよりは、トルコにおけるコンテンポラリーダンスの今を読み解く上で非常に有意義でエキサイティングなフェスティバルであるように感じました。若手から最注目の新進振付家、そして草分け的役割を担ってきたベテランまでの作品が一挙に上演され、その歴史と変遷、そして未来への指針が窺い知れる優れた内容のプログラムでした。


photos(C)Ezgi Kaplan
グループ「Tepetaklak(邦訳:逆さまの)」
/振付:タリン・ブユックルクジャン

前屈して顔を股の間から覗かせるという姿勢から醸し出される動物以上人間未満の危ういパーソナリティーが、秩序とカオスを行き来する緊張感を描き出した。
ソロ「trans-mission」
/振付:ノシロナオコ

何もない空間、白い板、一つの身体。最小限の要素によって構成され、主体と客観を行き来する身体が環境要素の一つとして作用し、空間のダンスを展開する作品。

photos(C)Ezgi Kaplan

photos(C)Ezgi Kaplan
デュオ「GRAF」
/振付:TALdans(ムスタファ・カプラン、フィリス・シザンリ)

既にヨーロッパで定評のある彼らが、新たなドラマトゥルギーでイメージの構築によるダンスを見せた最新作。

photos(C)Ezgi Kaplan
デュオ「camaddamlar(邦訳:グラス男)」
/振付:イリヤス・オドマン、エヴァン・エバーチャー

たくさんの伏せられたグラスの上で、それをタスクとして展開するムーブメント。
デュオ「gunesli pazartesi(邦訳:晴れた月曜日)」
/振付:サファク・ウィザル、ベディハン・ダーマン

DV8フィジカル・シアターを彷佛とさせる秀逸なドラマトゥルギーで男性の性を描いた作品。

photos(C)Ezgi Kaplan

photos(C)Ezgi Kaplan

「Faili Mechul」
/監修:ミヒャン・トマシャン

無数に蠢く黒い風船には、かつてトルコ国内で捕らえられた政治犯の顔写真が結び付けられており、それらが観客によって会場外へと運び出されて天空へ解き放たれるという、観客参加型インスタレーション・パフォーマンス。

グローバリゼーションへの懐疑、個々のパーソナリティーの追求

その作品群や、参加した振付家らとの会話を通して、今回一つ大変興味深い動向が窺い知れました。これまでアイデンティティーの獲得に奔走してきた彼らが、グローバリゼーションの波を受け、その追求に懐疑的となり、その指向が民族・国家を越えた個々のパーソナリティーの追求へ移行しているということです。それが一時的な指向であるのか、あるいはそのまま新たな段階へと発展していくのか、いずれにしても大きな分岐点に差し掛かっているように感じられました。今後もその動向は要注目です。

[参考URL]
イスタンブール・ダンス・フェスティバル www.istanbuldansfestivali.com
garajistanbul www.garajistanbul.com
CATIコンテンポラリーダンス芸術家協会 www.catidans.org