DMJ国際ダンス映画祭 2015

「ダンス映画」と「国際ダンス映画祭」へのこだわりを語る

 
2015年で10周年になるDMJ国際ダンス映画祭のプロデューサーの飯名尚人。今回のダンス映画祭のセレクション上映のため、全世界から応募があった150作品を16作品に絞ったのも彼だ。今回の映画祭の見所と彼のこだわりを探るため、埼玉県川越の喫茶店で彼にインタビューを行った。彼の考えるダンス映画とは何か、どういったものがセレクションされているだろうか。
 
プロデューサー:飯名尚人
聞き手:黒田瑞仁



・今年で10回目の国際ダンス映画祭。今回のセレクションですが、150作も応募作があった中で、どういう基準でセレクションされたんですか?

飯名:今年は各国から150本エントリーがあって、そこから16本選び出しました。基準の話ですけども、まずこれはダメ、っていうのは「舞台記録であるもの」「ドキュメンタリーっぽいけど、ダンサーやカンパニーのPR的な作りのもの」「インスタレーション的な映像」です。募集要項に、舞台記録はダメですよ、って書いたりしてるんだけど、送られて来ちゃう。そうすると150本のうち100本くらいになって、そこからようやく作品の中身での審査になります。ダンサーの存在感、とか、ダンス的な要素として動きが面白いか。それから映画的か。各国のダンス映画祭は、それぞれに特徴があります。僕のやってる国際ダンス映画祭では映画的か、映像的か、という部分にこだわってると言えます。

・映画的かというのは、映像として完成度が高いということですか?

飯名:なかなか上手く言えないんだけど、「映像力」とか「映像美」という言葉がある。いいカメラで撮れば綺麗に撮れますけど、でもそれだけで面白いのか?ということがありますよね。奇麗にダンサーが録画されてるだけじゃ、映像美とは言えない。映像美というのは、「何か映し出されている」「何か映っちゃってる」ということなんです。そこがすごい大事。それがあるかないかが映像的かということです。なので、ダンスという側面だけでセレクションしてしまうと、ダンスが上手いとか、ダンスカンパニーの知名度とか、そういう基準になりがちで、それって映画ファンからしたら面白くないんです。 じゃあ映画ファンが見たいダンスの映像は何か、と考えるわけです。ダンスの別の切り口があるはず。そんなようなスタンスで、ダンスと映画、両方の視点で選んでいるんです。

・映像面も重視ということは、ダンス映画のセレクション方法として世界的にも珍しいということですか?

飯名:他の国のダンス映画祭は応募すれば、すべての作品が上映されるものも多い。一日に何十本も流すこともある。ドキュメンタリーもビデオアートもある、オールジャンルがほとんどです。でも我々の国際ダンス映画祭はあえて絞っています。例えば、ダンスをスローモーションで撮影した映像とか、そういう演出の作品は、「展示」として見せる方がいいと思うんです。"映画館でチケットを買って、席に着いて、15分ダンスのスローモーション作品を観る"って、面白い??ということになる。僕は飽きちゃう。1分くらいだったらつき合えるけれど。 舞台記録の映像にしても、レアな条件の舞台記録映像ならともかく、自分たちの公演を綺麗に撮って編集した映像を、お客さんが映画館で観たいかな?それは映像体験としてつまらないと思うんです。だったら生のパフォーマンスを観たほうがいいですよね。なので、映像的・映画的な演出が必要なんです。

・今回の映画祭のような映像設備の整った場所でダンス映画を観せたいという意図が見えてきました。 中には唐突にダンスが出てくるような作品もありますが、映像畑の人たちはどうやってダンスを自分の作品に取り込むのでしょうか?

飯名:喫茶店のテーブルの上でダンスを踊ってたら面白いよね?くらいの軽いアイディアの作品も、応募作品の中には多いですね。アイディアは悪くないけど、でも、なぜそこで踊っているか、なぜ踊らなければならないのか、というのが映像と身体から伝わってこないと、そういうダンス映像を観てもあんまり面白くない。言葉には出さないけど、その人の体の動き、内面、気持ちが見えてくるようにはどうやったら撮らなきゃいけないか。踊ることでその人の内面やストーリーが見えてくるように映像を撮ることを考えないといけない。面白い場所で踊ってるだけという映像は国内外の作品問わず、僕は落としちゃう。美しい風景で美しい映像で踊ってるだけじゃ、映像美とは言えない。もちろん、その美しさが「圧倒的」だったら、また観たいと思う。なんだかよくわからないけどもう一回観たいって感覚が大事。ダンスってそういうところがある。ただただその人に魅了されちゃった、とか、なんだかわからんけど気になる!というのもセレクションしていかないと、選んだ作品が全部似てきちゃうんですよね。 ダンスと映画という2つのジャンルを跨いでいるわけですが、映画寄りのセレクションばかりでは、今度はダンス的な面白さを見落としてしまいます。そこも気をつけて選びました。

・散らしてますよね。

飯名:かなり散らしてる。いろんな人が楽しめるように。

・バリエーションがあることの一因として、それぞれの作家のお国柄もあるような気がしますが。

飯名:どうでしょうね。コンテンポラリーダンスはもっと自由なはずなんだけど、なぜか様式化されてきて、形式ができてきちゃった。各国のダンスが均一化して面白くなくなったと僕は思ってる。アジアのダンサーたちも、ヨーロッパのコンテンポラリーダンスを学んでいるし、自国で欧米で学んだコンテンポラリーダンスをやっていくということを目標として頑張っている部分もあると思う。その一方で、国際的にダンスを観ようと思った時、「あれ?なんかどれも似てるな」と思うことがある。でも作品のテーマというのは、お国柄というのが出てくる。その国で生まれて、そこで生活してる身体というのは、特徴が出ますよね。映像も同じです。同じようなカメラで撮影してるんだけど、どこか匂うものが違う。だからテクニック的なことじゃない「ダンス映画」というのが面白いんです。

・ダンス映画祭をやっていると、「ダンスは生じゃなきゃ」と言う人たちもいると思いますが。

飯名:確かに「ダンスは生じゃないと」と言われ続けてますよ、色々な人から。今でも。ダンス映画祭でやりたいのは、映像としてダンスがどう作品になっているか、です。なので「生のダンスと映像のダンスはどっちがいいか」なんて議論はナンセンスなんだけど、「ダンスは生がいい」という感想は毎回言われるんで、どうやってダンス映画のコンセプトを伝えていこうかなと。

‪ADELAARS Trailer‬ 


たとえば、昨年のセレクション作品"Adelaars"は、「鷲になる」っていう作品。人間が何かに変身して表現するっていうのは、ダンスの根源ではないかと思うのです。雲になる、花になる、ケモノになる、神様になる。何かに化ける。舞踏はそういう何かの化身というのが根本にある踊りだと感じます。鷲に変身する"Adelaars"は、これを舞台でできるだろうか、とか考えます。なんとも言えない青空と、枯れた乾いた大地で踊っている。かと思うと、同じく水の枯れたプールに女性がいて、彼女も鷲の羽根のような腕の踊りをする。これを舞台で同じ構成で出来るだろうか。お客さんがこの映像と同じ感覚になれるだろうかというと、そうじゃないはずです。プールと大地というロケーションを、なんの説明もなく行き来する、という映像的効果が、何かを想像されるわけですから。つまり映像の編集による効果も大きい。 Aという場所からBという場所に突然行く。このAとBの間に説明的なショットを入れると、映画の理論上は成立するけども、つまらない作品になったりする。説明的な映像になるわけですから。監督や振付家が意図的に映像による「ジャンプ」を持ちこんでいるかが大事で、その際に作り手に自覚があるか、意図して編集したものかどうか。理論、理屈をジャンプしちゃうわけ。そういう部分も丁寧に検証して作品を選んでいきます。ただ単に面白いという基準だけで選んでくると、「ダンス」とか「映画」とかいうものの定義付けが崩壊してしまう。偶然面白くなっちゃったっていう作品もあって、そういう作品は選ぶ時悩むんですよ。これって、意図的なのか、偶然なのか、どっちかなって。偶然でももちろんいい、でも、この偶然に作者は気がついているのかな、とか。

・ダンスと映画、それぞれ歴史と背景があるジャンルがどう出会ったか、どう組み合わさったが大事というわけですね。

飯名:現状は、まだその段階。今は「ダンスと映画」という2つのジャンルの重なり。だけど、これからグニャグニャと一体化していくかも。フィジカルな映像というものが生まれて来る。映像自体がダンスしてる!というものになっていくかもしれない。映像自体がダンスをしている作品を観たいと思う。ダンスが被写体となった映画、ではなくて。そのくらいの実験的なものがあれば、ダンス映画は次のフェーズに入っていくのかなと思う。






記事には入れなかったが、去年のセレクションや未発表作品へのコメントも沢山あった。今年のセレクション作品に関しては、映画祭当日の上映イベント後にそれぞれキュレータートークという形でコメントがある予定だ。
セレクションは映画祭1日目、2日目に分けて上映される。映画祭1日目はセレクション以外に二つの特別プログラムがあり、映画祭2日目にはポルトガルのダンス映画祭In Shadowのセレクションも上映される。ダンス映画をとにかく沢山観てみたい、あるいは二つのセレクションの違いを観てみたい人は2日目の来場をオススメする。

2015年セレクション上映


2015年10月11日(日) 17:00~19:00
国際ダンス映画祭プログラム A + キュレータートーク

2015年10月12日(月・体育の日) 16:30~18:30
国際ダンス映画祭プログラム B + キュレータートーク