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国際ダンス映像祭

国際ダンス映像祭2006 
dance and media SNAIL AWARD 受賞作品発表



■インターナショナル部門最優秀賞■ 
 『STREET CAR』 ピーター・チン(カナダ)

■国内コンペティション部門最優秀賞、クリエイティブ賞■  
該当なし


■P-house賞■ 
『rem-sketch 01 【「魂戯れ」の記憶の記録】 』
(日本)
2006年5月

今年から名称が変わり「国際ダンス映像祭」 となったビデオダンス上映会が、ゴールデンウィークの6日間連続で開催されました。
国内外全部で57作品が上映され、最終日は審査員による[dance and media SNAIL AWARD]の授賞式が
行われました。

詳しいイベント情報→ http://www.dance-media.com/videodance
 
[dance and media SNAIL AWARD 2006]

今年から始まった SNAIL AWARD。翻訳すると「カタツムリ賞」。カタツムリ型のトロフィーが授与されます。
審査員は、秋田敬明さん(P-House)、内田由紀さん(イスラエル大使館)、小沢康夫さん(プリコグ代表、プロデューサー)、田村洋さん(DMJ顧問、音楽家)、福冨達夫さん(セゾン文化財団)の5名。
皆さんの詳しいプロフィールは、こちらへ
http://www.dance-media.com/videodance

審査基準は、
 [1]映像として面白いか
 [2]効果的にダンスがなされているか
というあたりに重きがおかれました。

「ダンスはすばらしいけど、これは舞台でみればいいよね」とか「映像は面白いけどダンスがいまいちだなぁ」とか、ここではバランスというのが非常に重要です。とはいっても、映像祭なので、なにしろ映像として観客を楽しませてくれるもの、ということが重要な審査基準となりました。同時に、今後の日本でのビデオダンスというジャンルの発展に向けて、今回の受賞作品が良い刺激になるといいなぁ、という思いも垣間見えます。

インターナショナル部門最優秀賞は 『Streetcar』 ピーター・チン (カナダ)に決定!


手元のアップや目だけのダンス、という映像でしか観客が見られないダンスの構成と、全体的に漂う独特な世界観。30分というビデオダンスにしては長めの作品ですが、観る側の時間の感覚を麻痺させるような構成と編集は非常に面白くできています。
また、現実のような夢の中のような微妙な物語は、非常に抽象的に作られていきますが、実際に映像に出てくるものはすべてリアルなもの。日常と非日常でウネウネと変化していく世界が描かれていきます。



[あらすじ] 病院でウィルスのような写真を見せられ、医師に何かを告げられる主人公ピーター・チン。なんとなく落ち込んだ深刻な表情で、帰り道の路面電車に乗り込みます。いつもの風景といつもの車内。ところが徐々に車内の様子がピーター・チンの世界に取り込まれていく。夢と現実の脳内劇場スタート。アジア系修道女、禿げのビジネスマン、真面目そうな青年、スキンヘッドの男、よくいる女の子、ヘッドホンでロックを聴く若者、主婦、そして謎のミュージシャン。すこしずつ変化していく車内の風景・・・。




「映像作品なら、壁や天井によって限られた空間(=劇場)を抜けだし、街中というより広い空間にダンスを置くことができるという特性を活かした作品。しかもさらに「市電」という、限られつつも移動する空間で踊るという二重構造によって捻りを効かせている。見事なアイデアである。遠近法やピントの移動による焦点とぼけの対比、また手と指、目や顔の表情と言った身体の細かい部分を使った"ダンス"など、カメラという表現の道具も有効に活用している。編集も卓越している。日常的な環境の中で段々とシュールさを醸し出している展開も良い。ダンス映像の可能性を提示した作品。今回観た作品の中で最も良く出来ている。」(福冨達夫氏の講評)


インターナショナル部門ノミネート作品

 

『A.P.A.A.I』
Guillem Morales Llorens (スペイン)
  『Tremolo tremolo』
Oded Lotan (イスラエル)
  『Cellfish』
Shely Federman (イスラエル)
『Streetcar』
Peter Chin (カナダ)
『Peep Show』
CORPUS (カナダ)
『On a Wing and a Prayer』
Huey Benjamin (オーストラリア)
『Together』
Madeleine Hetherton (オーストラリア)
『Exodus - Woman on the run』
Chendra Effendy (インドネシア)
『Burst』
Reynir Lyngdal (アイスランド)
『To the House』
J. Haugerud, Kajsa Naess (ノルウェー)
『Portrait』
Saara Cantell (フィンランド)
以上11作品がノミネートされました。


コンペティション部門最優秀賞、該当ナシ!?


田村洋氏
秋田敬明氏
福冨達夫氏

小沢康夫氏
全22作品がエントリーされ、すべてが上映されました。
審査の結果、今年度は「該当なし」という結果に…。
なんでだ!?

「日本のビデオダンスは、作品を作っても発表する場がないので、DMJでは毎年映像祭を開催しています。でも海外にはすでに20ほどのビデオダンス専門のフェスティバルやオーガナイザーがいて、海外も視野に入れるとマーケットの拡大する可能性は高い。DMJでは、コンペティションによって選ばれた作品をこうした海外のフェスティバルに率先して紹介し、売り込もうと考えています。今回、審査員のみなさんと協議の結果、インターナショナル部門とのクオリティーの差が目立ちました。しかし、それは製作者側の問題だけでなく、日本のビデオダンス界の問題も多く、それが明確になりました。」(進行役/飯名氏)

海外の作品の多くは資金集めがうまくいっており、財団、国、アートセンターなどなどがダンス映像を制作することにポジティブです。そのため、フィルム撮影や質の良いカメラなどを使うことができるし、撮影のセットやメイク、衣装などにも手が込んでいます。反面、日本の作品は、制作者によるハンディーカメラによる撮影などの低予算製作を強いられている状態。その差は「映像コンテンツ」として並べたときに顕著です。

「これまでに海外へ日本作品を持っていったときに感じたことは、日本の作品はプロモーションビデオ的なものが多かったり、非常に抽象的で難解な作品が多く、コミカルなものや、観客が映像を楽しめるレベルの作品が少なく感じました。もちろん良い特長としては、グラフィカルでデザイン性の優れた作品も多い。」(飯名氏)

「とはいっても、低予算でも面白いモノはアイディア次第で作れるかもしれない。たとえば、フィンランドの『ポートレイト』という作品は良い例だと思います。それと、日本においてビデオダンスって何なのか?ということがまだ明確ではない。今回観て感じたのは、ただの舞台記録映像はビデオダンスとは言いがたいだろう。DMJからも何か具体的な製作支援が必要なのでは?」 (小沢氏)

「審査員として厳しい決断をしたが、コンペといっても単に賞をあげればいいと言うものではないし、審査員としても責任とリスクを自覚して選出すべきです。今回は残念ながら対象となる作品が無かったですが、次回に期待したいと思っています。」(秋田氏)


国際ダンス映像2006 P-House賞は、
大駱駝鑑の動画曼荼羅作品 『rem-sketch 01 【「魂戯れ」の記憶の記録】 』 に決定。



今回会場エントランスに展示された高さ6メートルの「動画掛け軸」は、多くの来場者を驚かせる作品でした。
この『rem-sketch 01 【「魂戯れ」の記憶の記録】 』
は、曼荼羅のように大駱駝鑑のダンサーが平面の中で踊りまくるのですが、単なるグラフィックデザインではなく、「舞台記録映像」「ドキュメンタリー」として製作されました。

京都造形芸術大学・舞台芸術センターが主催する「上演実験シリーズ」にて公演された大駱駝鑑の舞台作品『魂戯れ』を映像記録するにあたり、この作品に適した記録方法を模索。
その結果、1時間40分の舞踊作品を1枚の掛け軸に記録する、という実験的な手法を選び、4ヶ月の製作期間を経て完成。今回、初展示されました。

製作 / 木村隆志・上峯敬・今尾日名子
この作品のスゴイところは・・・

[1] 実際の舞台公演を記録した素材から、すべてのダンサーや舞台美術を切り出し(トレースし)、配置していること。
[2] 舞台作品の印象をそのまま鑑賞者に与えることで、記録映像の本質的な問いに答えを見出していること。
[3] ループ映像で作られているにも関わらず、鑑賞していると時間感覚が麻痺し、ずーっと鑑賞してしまう。大駱駝鑑の実際の舞台を観ているかのような陶酔を引き起こし、実際の作品を観てみたい、という気にさせること。
[4] 制作者が徹底して「舞台記録である」ことを主張していること。

「現代美術の関係者として今回この作品にP-House賞を贈ります。いろいろな人がいろいろな想像をして、展開を考える作品です。たとえば、他のダンスカンパニーで作って見たらどうだろう、スポーツでも作れるんじゃないか、とか。鑑賞者の想像力と派生バージョンを自動的に引き出す力のある作品は魅力的で、次の展開に期待できます。ダンスの枠だけにはまらず、現代美術館で展示しても評価される作品だと思います。」(秋田氏)



今回、好評だった作品は?


好評だったのが、インドネシア舞踊のドキュメンタリー『
RASINAH The Enchanted Mask』。インドネシアの舞踊「Topeng」の天才ダンサー・ラシーナの物語。バリ島在住のアメリカ人女性プロデューサーRhoda Grauerによって製作された傑作です。
全編に流れるガムランのサウンドと虫の声、そして70歳のおばあさんには見えないスリリングな舞踊を存分に見せてくれる。戦時中、オランダの支配下にあったインドネシアの歴史やダンスを守るために生きる人々の生命力を描いていました。

オーストラリアの振付家 Sue Healey(スー・ヒーリー)の3作品『Fine Line』『Niche』『Three Timesは、どれもダンスに的を絞った質の高いダンス映像でした。振付と演出、ビデオ編集、トリッキーな撮影方法というコラボレーションが、映画的なストーリーはないものの、美しく仕上がっていました。音楽も特徴的。



まとめ


『国際ダンス映像祭』は来年も開催するそうです。

「このフェスティバルでは、有名無名関係なく面白いダンス映像を集め、公開していくことを目指しています。何か映像とダンスの新しいアプローチを主張した作品も面白いし、映画的な手法で観客を楽しませてくれるダンス映画にも期待しています。舞台の演技と映画の演技が異なるように、舞台でのダンスと映像の中のダンスもまた違った振付や演出が生まれるのではないか、と思います。」(飯名氏)

レポート:タナカ 2006/5/10