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memory project


マキシーン・ヘップナー 「メモリー・プロジェクト KISS」
2006年4月4日(火) にカナダ大使館で開催された「メモリープロジェクト KISS」のプレゼンテーション。 脳とダンス、という不思議なテーマで展開されました。

イベントURL http://www.dance-media.com/memory
 

マキシーン・ヘップナー

「メモリープロジェクト」のフェーズ2として「キス」がテーマとなって、ダンスパフォーマンスのデモンストレーションと、詳しいコンセプトの解説が行われました。

紙に何かいろいろな言葉を書き込むマキシーン・ヘップナーの手元が映写されます。その映像と脳のシナプス の写真。脳が刺激を受けることでいろいろな形に情報が飛び交う様子が映し出されていきます。
シーンそれぞれに、 キスに関する言葉が登場。「情熱的なキス」とか「軽いキス」とか「どきどきするようなキス」などなど。こうした感情と脳のシナプスをダンスもしくはボディームーブメントにしていく、という振付作業は非常に面白い発想です。

今回のデモンストレーションは非常に簡易的なものでしたが、実際は、観客が全員ノートブックPCを持ち、ネットワークでつないで、オリジナルのインターフェイスに観客は言葉を打ち込んでいきます。
「見たものを書き込んでください」というような簡単な質問です。
パフォーマンスが始まると、それと当時に観客はどんどん見たものを言葉で書き込んで、データベースに送信していきます。
こうして、様々なその場のメモリーがデータベースに蓄積されていきます。

ダンサーの瀬川貴子
カナダ人のダンサー、マキシーン・ヘップナーの言葉をそのまま引用すると、このプロジェクトを開始する経緯は・・・

私のスタジオワークは、精神の部分(ダンス作品を作成する感覚で、身体の情報部)を重視してきました。約10年前、「サイクルシリーズ」の言うスタジオで、実践の中に考えを取り込み、形式化を始めました。その結果、2001年にShared Habitatのゲスト出演者として、トロントでのダンスと生物学フェスティバルにて、ティム・ケネディー博士(モントリオール神経生物研究所の神経生物調査員)とチームを組み、ティム・ケネディ博士とどのように心・精神が働くかに関して話し合いを持ちました。ティムのモントリオール神経生物研究所の研究室では、進歩を導く、神経系で記憶に影響する生化学メカニズムを調査しています。この研究は深刻な神経性損傷を負った人が、通常の活動能力を取り戻すことと等しくあり、非物質的な経験(考え、感情、その他)が直接脳と生理的構造、また細胞構造にまで影響を及ぼすということを証明し始めています。


シナプスの解説
さらに、マキシーンはこういう話を聞かせてくれました。

「脳のシナプスを写真で見ると、宇宙みたいに見える。それを映し出すだけで、はじめは何か分からないけど、だんだんそれが宇宙ではなくて、自分の脳の中の出来事だってことに気が付く。脳って、よく羊のイメージに例えられるのだけど、羊ってラムって言うわよね?コンピューターのメモリーもRAMというから、きっと何か関係があるはず。偶然かもしれないけど。」

なるほど、確かに映画「ブレードランナー」の原作は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」というタイトルだし、村上春樹の「羊たちをめぐる冒険」もまた、なぜか羊が出てきて、主人公の「何か」を示唆しているんでしょう。



マキシーンの解説で、ホワイトボードを使った解説は分かりやすいもので、真っ白なホワイトボードに小さな点を書いて、そこからゆっくり丸をクルクルクルクルと描き始めて、ピタッと止まったかと思うと、そのまま右端まで直線を描き始めて…という落書きをし始めます。

「脳の信号というのは、何かひとつの点から、こういう風に一筆書きで、どんどん発展していきます。その信号はゆっくりのときもあれば、早いときもありますが、ゆっくりに見えるけども、実はその中ではものすごいスピードで動いている、という場合もあります。高速で回る駒が止まって見えるように。こうした動きは、ダンスなんです。」

こうした考え方が、脳医学や生物学の学者とのコラボレーションで生まれていきたことは、非常に面白く、本来のメディアとダンスのコラボレーションなんじゃないかと思います。映像を使ってるだけがメディアではなく、作品作りのアイディアのために様々なメディアと接していく、というプロセスが重要なんだなぁ、と実感しました。

「日本にはインターネットカフェがたくさんあるでしょ?そこでパフォーマンスしたらおもしろいわね。オンラインだし。」

日本で記憶に関するメディア・パフォーマンス・ワークショップができるといいなぁ、と思います。