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ベルリン視察


ドイツ視察ツアー2006 ベルリン編
2006年2月 / 飯名尚人(Dance and Media Japan)

ドイツ大使館からのサポートで、ドイツに行きました。 その報告です。かなり日記的な文章でスミマセン。ちゃんとした報告会はしないと、と計画中です。
ベルリン、フランクフルト、カールスルーエ、ケルンの4都市のメディアアートに関する施設を見学する、というジャーナリストツアーに参加しました。空いた時間は、パフォーミングアーツに関するリサーチをしてきました。
何しろ短期間に大量の場所に行ったので、ちょっとずつ紹介します。
 
まずは、ベルリン・アート・アカデミーを会場として開催された『トランスメディアーレ』について。
ベルリンで毎年開催されるメディアアート祭です。第19回となる今年のテーマは、「Reality Addicts」。もともとトランスメディアアーレは、ビデオアートのフェスティバルだったようで、今でもビデオアート色が強い、つまり、アナログ感たっぷり、です。
メイン会場では、「Smile Machine」というメディアアートの企画展、「トランスメディアアーレ賞」のノミネート作品の展示、ビデオアートの上映、カンファレンス、サロンでのデジタルミュージックのライブ、そして、フェスティバル・カフェ、物販などなど。
何しろ多くの人が集まってきています。
会場では、ビデオ作品がリラックスした感じで鑑賞可能。WEB作品やFLASH作品などはPCで観ることができます。
もっとデジタルアートが色濃くアピールされているイベントかと思いきや、展示されている作品の手法は非常にアナログ。「デジタルなんですよ、すごいでしょ!」という作品が無い、というのは非常に好感が持てます。
オマージュなのか、企画展の入り口にはナム・ジュン・パイクの作品が。「ビデオアートの死」とどこかの紙面に書かれていましたが、なるほど、そうかもしれないなぁ、と思ったりしました。
メディア=デジタル、という印象がありますが、そーではない、というのが「トランスメディアーレ」を通じて実感しました。
(偶然、クリスティアン・ツィーグラー[メディアアーティスト]に会い、いろいろ話す。
「トランスメディアアーレ賞」のノミネート作品は5作品。その中のひとつに日本人が。エリック・サティからインスピレーションを受け、MAX/MSPを使っての作品。通路を歩いている観客の音を拾って、デジタル化。音符に割りあえてて、その場で自分が歩いたときの「楽譜」をプリントアウトして見ることができます。

毛利悠子さん、三原聡一郎さん の作品『Vexations - Composition in progress』
「トランスメディアアーレ賞」授賞式の様子。
ノリが軽くて気持ちいい。
毛利悠子さん、三原聡一郎さん の作品は2等賞でした。
詳しくは公式サイトへ

別会場でも、いろいろなイベントが開催されています。「クラブ-トランスメディアーレ」というのは、運河沿いのデカイクラブ「マリア」(たぶん元々は倉庫とか工場だったんでしょう)でのオールナイトイベント。
ドイツ人はみな大きいので、日本人のチビっこがクラブに入ると、「人壁」という感じに。


TESLAエントランス

さらに別会場「TESLA」では、メカニックなパフォーマンスを上演。天井に吊るされたUFOキャッチャーの手みたいなのが、低音バリバリのインダストリアルサウンドに乗せて、ガシガシ動く。
この会場では、アーティストレジデンスが行われていて、この「トランスメディアーレ」の時期は、オープンスタジオが実施され、アーティストの製作過程を覗くことができます。人が来ると、アーティストが「何か説明しようか?」と言って、詳しく案内してくれます。
(TESLAで偶然、walkscreenのミキ[写真家]に会い、「友達のロックバンドの演奏があるから一緒に行こう」ということで、そのままライブハウスとクラブに連れて行かれる。ミキとは、2005年夏のダンスフォーラム以来。)

TESLA」では、音楽家でメディアアーティストの遠藤拓己さんがオープンスタジオを開催。遠藤さんと徳井直生さんプロジェクト「Phonethica」を解説してもらいました。発音が似ている音で検索していく辞書。おもしろい。
(会場近くのカフェで河内一泰さん[建築家]に会う。遠藤さんのスタジオの手伝いに日本から来たとのこと。)
「トランスメディアーレ」と同じ時期に、「berlin 100 grad」というパフォーミングアートのフェスティバルが開催されていました。何しろたくさんのアーティストが参加。連日、次々と上演されています。SophiensaleHebbel劇場で開催。
これにポストシアターが参加。新作の「figre 8 race」のショート・バージョンをパフォーマンスしました。
 
Sophiensaleの会場内と概観。
(会場で偶然、浦山さん[女優]に出会う。彼女は、現在ベルリンでかっこいい劇団NICO and the Navigatorsをやってます。)

Hebbel劇場でのパフォーマンス終了後、カフェラウンジで、その日の「簡単批評会」が開催される。キュレーターや批評家が登場して、「今日、印象に残った作品」について、ラフに語る。ざわざわと若いアーティストたちが集まってきて、聞く方も非常にラフ。シーン、とは絶対にしない。批評家から「おーい、もうちょっと静かに聞いてよ〜」と会場をなだめる一幕もあり。15分ほどの批評会が終わると、BGMのボリュームが上がって、クラブタイムに。Hebbel劇場は近くに3箇所あり、全部がこのイベントで使われている。

バナナの落書きかな、と思っていたら、「ちゃんとしたギャラリーには、このマークがもらえるのよ」とドイツ人が教えてくれた。
KW(現代美術館)の周りには、いろいろなギャラリーがある。


こういうパンキッシュなところも実は劇場だったりする。
ベルリンのダンススタジオや劇場を案内してくれたのは、ベルリン在住のダンサー池田一栄さん。



dock11」は有名かつ重要なスペース。パフォーマンス・スタジオなどがある。
ベルリンの印象。カオス。この視察ツアーでは、ベルリン、フランクフルト、カールスルーエ、ケルンという都市に行きましたが、ベルリンの面白さは「体制が出来上がっていない状況への可能性と期待」ということでしょうか。作り手のための都市、という印象があります。家賃も安いし、事務所やアトリエを借りるのも東京とは比較にならない。ベルリン在住の人に言わせると、「その代わり賃金も安いから、実は同じ」。
フランクフルトやケルンはアートが体制化されているような印象を受けました。近代化、されています。ベルリンは、それに比べて貧乏くさい街ですが、その中で自分たちのムーブメントというのが自然とそこに生まれる可能性がある。クリエイターやアーティストにとっては、そういった空気は重要なんじゃないか、と。
でもマーケットにはならないかも。作り手=売り手は多いけど、買い手はベルリンにはいない、ということも言えるかもしれません。ベルリンに買い手がいなくても、日本と違って、ヨーロッパは大陸なので隣国へのツアーなどの実現性は高い。

街を歩いていると子供が多い。若いお母さんは大抵がベビーカーを押して歩いている、という感じ。聞いてみたら「ドイツで一番子供が多いのがベルリン」だそうで、どうやら東西の壁が無くなってから、東側の安い地区に若い世代がどーっとやってきて、そうした世代(ニュー・エコノミーと言うらしい)が「そろそろ生活も安定してきたし、家族でも作るとするか」ということで、子供急増。団塊の世代か!?となると、戦後の日本のような経済的な急成長が起こりうるのか。もしくは、単に近代化されてアート的にはつまらない街になってしまうのか。

マネージメントの概念がアートにも流通して以降、いろいろなものに「システム」が整備されて、それが有効な手段となってきました。アーティストにとって活動しやすいシステム、インフラは安心です。経済的にも、情報的にもメリットは多いのです。が、「でも、アートってエラーしちゃってる人たちの何かなんじゃないの??」などと思いました。通常、システムにおいてエラーは排除される、んですが、いやいや、そうではない。エラーしないと。アートが優等生になっちゃうと、なんだかパワーなくなっちゃうでしょう。
と、思いながら、ドイツ視察ツアーは続く。。。

次回は、カールスルーエ編(の予定)。