REPORT
MEDIA PERFORMANCE WORKSHOP


[LINK]
VOL.1/2 レポート
VOL.3 レポート
■'06 DMJ summer workshop [sound scap and performance]
<についての簡単な覚え書き ver.1.02>


記事/新堀学(建築家)


□ Dismantle yourself - 外へ出よう

 「今年も下田行きたいんですけど」とDMJプロデューサー飯名氏に相談を受け、下見に行ったのは5月後半だった。昨年の南豆製氷所がかなりインパクトのある場所であったこともあり、今回はどこを「サイト=現場」にするか、いろいろ考えたのだが現地の英氏から教えてもらった田牛の龍宮窟を見に行ってもらった。
今年のコンセプトは「外へ出よう」ということ。
昨年は昨年で、面白い建築との対話を楽しんでもらえたとは思うが、現地の現況の事情もあるし、また何かしら新しいチャレンジがあったほうがよいだろうということで、敢えて異なる空間を提示した。


建築や地域の再生にかかわる中で、アートがその場所の文脈を切断することで新しい意味づけが生じるという経験が重なってきた。建築家という職能の中で、これらの事象をきちんと考えてみたいと思ったので、今回の飯名氏の呼びかけにぜひ協力させてもらいたいと考えたのだ。とはいえそれは、アートと建築がひとかたまりになるということを考えていたのではなく、何か環境や空間にかかわる手がかりが提案できるかもといったぐらいのアイディアだった。

「アートが箱から出る。」
とても美しく力強いテーゼなのだけれども、実際にそれが状況にとっても、アートにとっても幸せな決着になることはそれほど多くない。みんながそれを望むのだが。
私見では、既存の空間に非日常を導入するためには、ある種の手続きが必要なのだ。そのために現地のリソースをきちんと取り込むためのサーベイも必要だろうし、また同時にそこで見つかったものにその場で対応できるプレパレーションも必要なのだ。

そんなことを東京では簡単に考えてもらうことにとどめて、下田へ乗り込んだ。

□ Process in Process - プロセスの中のプロセス

具体的な内容については飯名氏のレポートに詳しいので割愛。(これらの内容についてのコミットも本質的にはサポートにすぎないということもあり。)
率直に言って、飯名氏のディレクションを途中段階で理解していたとはいえない。しかし、最終レビューの画面に切り取られたシーンを見たときに、ようやく理解の一端に触れえたような気がした。

それまで、このワークショップでは、松尾氏の「CMprocess」をなぞることでパフォーミングコンポジションを組み立てようとしていたように見えていた。「CMprocess」自体は松尾氏の思想と表現である。それはダンサーのスキルやバックグラウンドを問わないシステムとして、技術として移転可能なものだった。この移転可能性の面白さや価値は別のところで考えたいと思うが、問題はそれを外に出すことで(/だけで)ワークショップが成立する=作品になるのかということだった。
そんな底の浅いことを考えるはずはないと思いつつ、まあパフォーミングのプロパープレイヤーの少ない現況ではしょうがないかとも思ったことがあった。
 
しかし、私は(おそらくメンバーも)飯名氏の立ち位置を見誤っていたのだ。
ビデオが切り取ったシーンを見て理解できたのは、飯名氏がメンバーに要求していたのは、30分という尺をシークエンスとして踊りきるということではなく、その中でフレームに切り取りたくなるイベントを生じさせることだったのだ。
ワークショップ中、「ぎりぎり萌え」©松尾氏というキーワードが飛び交い、パフォーマーにイベントのレイヤーを重ねることを要求し続けた意図は、とにかく出来事としてのイベントの密度を上げるという戦略として理解できる。
つまり、このワークショップで実行された「CMprocess(+)」は、それを包含するもうひとつのイイナプロセスの内部プロセスとして見ることが出来るということだ。自らカメラを回し、編集も行い、完パケまで製作できる飯名氏の中では、30分という尺の必然に捉われる必要はない。トリミングによって空間を切り取り、またダビングによって時間を切り取ることで、求めていたリアルに肉薄できればそれが作品なのだ。

その視点から見るとき、今回のパフォーマンスでは、波や日没といった自然現象も含めて、かなりリッチなイベントを盛り込むことが出来たとたしかに言えるだろう。
その意味では、このパフォーマンスの真の価値はDVDなどの映像化によって伝達可能になるのだともいえる。
これが、今回のワークショップの一つの解釈である。
 
最近、その実例と呼べるかもしれない映像を見た。
といっても、ダンスの映像ではない。下記のリンクのソニーヨーロッパの映像だ。
http://www.bravia-advert.com/commercial/braviaextcommhigh.html
25万個のスーパーボールがサンフランシスコの坂を転がり落ちるという「出来事=イベント」を切り取った「だけ」の映像だが、この映像を「ダンス映像」として観てみることができると感じたのだ。ある種の力技によって、個々のボールとサンフランシスコの坂のある街角という状況が「重力というプログラム」によりインタラクションを起こし、その各部で生成するイベントをカメラが捉えることで、ある種のリアリティが観るものに訴えかけてくる。ボール個々に何の特別な仕掛け(ディレクション)があるわけではない。観る側にリテラシーを要求することもない。しかしプロセスの結果は非常にインパクトのある体験となっている。
このような映像をも「ダンス」として観る視点をとることが、「パフォーミング・アート」を箱から出すことになるのではないかと感じたのだ。人間とそれ以外のオブジェクトをオペレーションの対象として等価に見ることが、ディレクションに与える可能性は少なくない。そのとき環境はリソースになる。

そして、このイベントの生成に対する考え方を敷衍することで、以下のもう一つの「プロセス構築」の可能性が考えうるのではないか。


□ Event Cloud−このディレクションの彼方にあるもの

メンバーに見せる時間はなかったのだが、現地で用意していた教材に「コルビュジェのラ・トウーレット修道院とクセナキス」の話があった。
クセナキス Xenakis(1922〜2001)という作曲家のデビュー作である「メタスタシス metastasis(1955)」の中のサウンド・マス sound massというグリッサンドの音塊と、オンデュラトワールという窓の方立の割付のデザインのことなどを音と空間の結びつきとして参考にできたらと考えていたのだが、この「サウンド・マス」の話は今回のパフォーマンスの内容により直接につながっていたのだ。
メタスタシスでは、61人の奏者がそれぞれ独立の声部を担う。グリッサンドによって統計学を利用した音響密度のデザインがそのまま作品になる。密度の粗密がそのまま体験されるべきものとして提示される。
パートそれぞれが独立して走ることと、全体の景色が作品となるという点で、「CMprocess」の考え方に近いと同時に、またその中に「密度」という概念が入ってくるというところが、今回のワークショップのディレクションに通じるものがあると感じた。

今回のディレクションにおいて、レイヤーを増やし、出来事(イベント)の密度を上げたその先にあるのは、雲のようにイベントの密度が模様を描く状態なのではないだろうか。ミクロに見れば水蒸気と水の分子のブラウン運動に他ならないものが、巨視的には「雲」という実体のように認識され、またそこに潜在的な意識が投影されることで、くじらとか、島とか、ヒトの姿などさまざまな形象を想起させる。
今回のディレクションの向こうにあるものが、十分な密度のイベントの集まり、イベントの雲(Event Cloud)だとすれば、それが立ち上がるとき、観客それぞれがパフォーミングの場に見出すものは、全くそれぞれの自己によって異なる体験になる可能性がある。その状態をパフォーマーが想像しつつ、自分のプロセスを演じることが出来たらどうだろうか。
それは、「尺とシナリオ」という前提(=箱)から、パフォーミング・アートが本当に外に出るという非常にエキサイティングなことになるのかもしれない。

次回(があれば)そのために、音は、光は、あるいは空間には何が必要とされるのかについて考えて見たいと感じている。

(記2006.8.12 改稿2006.8.17 manabu synbori)


[プロフィール]
新堀 学(建築家)

1964年 埼玉県生まれ
1990年 東京大学建築学科卒業
1990年−1996年 安藤忠雄建築研究所
1999年−現在 新堀アトリエ一級建築士事務所
2003年−現在 NPO地域再創生プログラム副理事長
作品 1999年:明月院桂橋
  2001年:福岡M邸
  2002年:小金井K邸
  2003年:川越S邸
  2004年:コンバージョン研究会実証設計:三番町プロジェクト、東日本橋プロジェクト担当
  2005年:天真館東京本部道場

著作 1996年:セゾン美術館「コルビュジェ展」カタログ編集協力
  2002年:リノベーション・スタディーズ(INAX出版)
  2004年:コンバージョン設計マニュアル(エクスナレッジ出版)
  2005年:現代住居コンセプション執筆者参加(INAX出版)
  2005年:リノベーションの現場(彰国社)

新堀アトリエ一級建築士事務所
〒113-0033東京都文京区本郷6丁目20-5求道学舎104号
tel:03-3812-3169 fax:020-4667-4164
mail:m-syn@nifty.com